画像引用元:“ABC NEWS (ABC Central Victoria)”
オーストラリア・ビクトリア州で開設された動物介助療法ファーム「フラッシュ・ファーム」で行われている動物セラピーの効果を紹介した記事です。自閉症のために中学校への通学が困難となったライダーさんが同農場での活動に参加した後、若者のサポート役として活躍するまでに成長した姿が描かれています。
執筆者:Sian Gard
オーストラリア・ビクトリア州中部の街、ベンディゴの郊外で、社会福祉士が経営する農場が、行動やメンタルヘルスの問題を抱える子供や大人を支援しています。
クリスティ・ケンプさんは1年前に、セラピーを必要とするあらゆる年齢層の人々に代替手段を提供するため、「フラッシュ・ファーム(Flash Farm)」を開設しました。参加者の年齢は4歳から84歳までと幅広く、当初は一握りのクライアントからスタートしたケンプさんですが、今では40人近くのクライアントを抱え、さらに待機者リストをも抱えています。彼女の農場は、政府の国民身体障害者保険制度(NDIS)の登録プロバイダーとなっています。
「開業して12ヶ月が経ちました。このような短期間でここまで来て、人々の生活に大きな変化をもたらしたことは驚くべきことです」とケンプさんは言います。
馬と、さらに動物を
「フラッシュ」と名付けられたポニーとともに育ったケンプさんは、彼女の父親とともに、地元の障害者乗馬センターにそのポニーを連れて行き、乗馬の機会を提供していました。「見ることも聞くことも、歩くことも話すこともできない子供たちがフラッシュに飛び乗る姿を見て、この馬が子供たちの人生に大きな違いをもたらしてくれることを実感しました」とケンプさんは言います。 「フラッシュは、彼らに歩き回るために必要な足を与えました。フラッシュは、彼らに自由を与えてくれました」
ケンプさんは常に農場を開くことを夢見ていましたが、白血病との闘いの後、彼女は天職を追求します。「社会福祉士になるために大学に通っていた時、療法ファームを持ちたいと考えるようになりました。それは絵にかいたモチのように思えましたし、人々にも、それは素敵なことだが、おそらく実現することはないだろうと言われました」とケンプさんは振り返ります。
ケンプさんの息子がアスペルガー症候群と診断され、彼が動物とのふれあいを持ち始めた時の個人的な経験から、彼女は、セラピーには様々な動物が必要であることが分かりました。
「好奇心の強い、自然な探求心を持つ動物を探しました。そういう意味で馬は素晴らしいですし、牛が大好きな人も多いです。そしてロバも」と彼女は言います。
「だから私は、いっそのこと全部そろえてしまおうと決めたのです。そろえ終わるまでに、人々を惹きつける何かが現れると確信していました」
足掛かりに
14歳のライダー・グローバーさんは、小学校からハイスクール(中学と高校に該当)に進学したころ、 自閉症の影響でさまざまな困難に直面しました。
「学校にいるととても不安でした。 人が多すぎて、ただただ泣き崩れたくなりました。普通の環境で、少人数のグループでいても、それはぼくにとって非常にしんどいことなのです」とライダーさんは言います。
ライダーさんの母親、チェリー・オズボーンさんは2年前に彼を退学させる決断をしましたが、セラピーの選択肢は限られていたと言います。
「作業療法もありますし、心理療法士に診てもらうこともできますが、子供向けのサービスは多くありません。以前はベンディゴで利用可能だったサービスも閉鎖されていました」とオズボーンさんは当時を振り返ります。
かつては静かで内向的なティーンエイジャーだったライダーさんは、ケンプさんの農場での治療に参加した後、今ではピアメンター(新しい参加者のサポート役)として活動しています。
「ぼくが初めてフラッシュ・ファームに来たとき、そこで何かをしようとは思っていませんでした。若い子たちのサポート役になるとは思ってもいませんでした」とライダーさんは言います。「時々、少し大変なこともありますが、大丈夫です。みんなぼくと同じような問題を抱えているのですから」
オズボーンさんは、いつか息子が学校に戻ることを願っていると言います。「ライダーは農場でいきいきと活動しており、われわれは農場を足掛かりと考えています。彼が集団や人前で話すことへの恐怖心を克服できたとき、彼がまた学校に行けるようになることを願っています」と彼女は言います。
動物介助療法ファームは、今ではライダーさんの継続的な成長とライフスキルに欠かせないものとなっています。
ライダーさんは、「最初の頃はグループ活動に入りたくなくて、本当におとなしかったんです。ケンプさんに言われたことは何もしなかったんですが、今ではそれ以上のことをするようになりました。本当に助けられているし、これなしでは生きたくないとすら思っています」と言います。
こうした動物介助療法ファームはすべての人のためではありませんが、ケンプさんは、 動物と一緒に働くことで魔法のような結果が得られると信じています。 「一人でも、その日にベッドから起きて動物たちと遊ぶために来てくれる人がいれば、私は幸せです。すべての人のために世界を変えることはできませんが、一人の人の世界を変えることができれば、それだけですべての価値があると思っています」。