自然との触れ合いが、心の健康ケアに新たな道を開く

自然との触れ合いが、心の健康ケアに新たな道を開く

画像引用元:“Depden care farm

英国政府は、環境庁が後援する公共団体ナチュラル・イングランドが発表したグリーンケアに関する研究成果を政府サイトで紹介しました。

ナチュラル・イングランドの研究で、精神障害で苦しむ人々が自然の中での活動に参加することで、不安やうつ症状の軽減といったさまざまな効果を得られるという事実が確認されたということです。

 

公共団体ナチュラル・イングランドの発表

自然環境に関して英国政府に助言を行う公共団体ナチュラル・イングランドが、グリーンケア(ケアファーミング=介護農業)が精神障害に及ぼすメリットと効果についてまとめた新しい研究結果を発表しました。

2016年2月9日に発表された報告書では、自然をベースとした活動への参加が精神障害で苦しんでいる人々を助け、不安やストレス、うつ症状の抑制につながることが示されました。

報告書「自然ベースの活動による心の健康(メンタルヘルス)ケアへの介入の考察(A review of nature-based interventions for mental health care)」では、精神障害に苦しんでいる人々を支援するために、グリーンケア活動をより多く活用すべきとの提言がなされました。この新しい報告書は、ナチュラル・イングランドがエセックス大学と英国のメンタルヘルス慈善団体「マインド」からの依頼で作成されたものです。

英国では精神障害を持つ人が増加傾向にあり、1年間で少なくとも4人に1人が 「重大な」精神的健康問題を経験していると試算されています。新しい報告書では、メンタルヘルスサービスをサポートする上で、グリーンケアを通じて重要かつ費用対効果の高い方法を提供できることが示されました。

同報告書は、現在、英国で精神的な問題を抱えている人々を支援する3つの主要なグリーンケア介入方法に焦点を当てており、これらの方法は「ケアファーミング(介護農業)」「環境保全」「社会的かつ治療的な園芸活動」となっています。

報告書では、これらの分野のそれぞれのプロジェクトがすでに人々の生活に違いをもたらし、精神障害を持つ人々にポジティブな効果をもたらしているという証拠が示され、その中には、うつや不安、ストレス症状の軽減、認知症関連の症状の改善などが含まれています。

報告書はまた、これらのグリーンケア活動に参加した人々は社会的接触が大幅に増え、帰属意識の高まりや個人的達成感につながっていることを示しています。 環境大臣のローリー・スチュワート氏は、次のように述べています。

「メンタルヘルスは、我々が今日、英国で直面している最も深刻かつ複雑な問題の1つであり、自然とのふれあいが私たちの心と自己意識に非常に有益だという明確な科学的証拠を得られたことは素晴らしいことです。(政府が提供している)9億ポンドのカントリーサイド・スチュワードシップ計画の一環として、政府はケアファームのようなプロジェクトを支援し、必要としている人々に効果的な回復を提供しています。」

ナチュラル・イングランドの最高戦略・改革責任者であるアラン・ロウ氏は、次のように述べています。
「この報告書は、自然が人々の日常生活の質にいかに大きな違いをもたらしているかを明確に示すとともに、新しいパートナーシップや新しいサービスの提供を通じて、私たちが人々の福利を向上させるために何ができるかを示しています。」
「自然との接触や野外活動への参加が身体的な健康と精神的な幸福感を向上させることを示す説得力のある証拠が出てきました。ナチュラル・イングランドは、より多くの人が野外での実践的な体験から得られる恩恵を利用できるよう支援する方法を見つけることに力を注いでいます。」

 

次なるステップ

報告書では、英国におけるメンタルヘルスケアのための自然をベースとした支援活動の認知度とアクセスを高めるため、様々な行動を推奨しています。

ナチュラル・イングランドはすでに、グリーンケアサービスの規模を拡大するため、支援団体のケアファーミングUK(Care Farming UK)に実践的なモデルやケーススタディの特定を委託しています。また、ナチュラル・イングランドとエクセター大学は、自然環境が健康と福利に与える影響に関する最も説得力のある証拠をまとめた一連の「健康と環境に関するファクトシート」を作成しています。

この報告書ではほかにも、グリーンケアサービスの提供を強化するために、より大きな協力とリーダーシップが必要であることが明らかになっています。ケアファーミング分野から社会的・治療的園芸組織まで、約25の組織が参加する「グリーンケア連合」の発足は、この問題への取り組みを進める上で役立つでしょう。

ナチュラル・イングランドは、2016年の後半に開催される会議で、この報告書で提起された問題に取り組むために、健康と自然環境分野の専門家と協力していく予定です。 また、ナチュラル・イングランドは、持続可能なヘルスケアセンター(Centre for Sustainable Healthcare )と協力し、臨床指導者が保健システム内で実践的な変化を促せるよう、メンタルヘルスフェローシップを多数実施しています。

 

ケアファーミング(介護農業)の事例

農場は、グリーンケアのための理想的な環境を提供するものです。ケアファーミングは教育面でのアクセスを通じて支援され、「自然環境白書」の中でも重要視されています。ケアファーミングUKの目標は、2020年までに英国のケアファームの数を3倍の800カ所に増やすことです。

ドーセット州のマグダレン・ケアファームの「カーム・オン・ザ・ファーム」では、精神的な問題に悩む人々のために、予防と回復のためのプログラムを提供しています。体験型の、個々に適した活動を組める日には、動物や他の人々と自然の中で時間を過ごす機会を与え、リラクゼーション、社会的包摂、幸福感の向上、ボランティア活動への参加ルートを提供しています。

サフォーク州のクリンクス・ケアファームは、グレート・ヤーマス・アンド・ウェヴニー臨床委託グループと地元の一般開業医とのパートナーシップにより、軽度の精神障害を持つ人々に4カ月間のケアファーム活動を紹介する「処方箋に基づいた農業( Farming on Prescription)」を開始しました。

 

ナチュラル・イングランドとグリーンケア

ナチュラル・イングランドは、自然環境にアクセスして恩恵を受けられる人の数と範囲を増やすことに尽力しており、「万人のためのアウトドア(Outdoors for All)」プログラムを通じて、質の高い自然環境を誰もが公平に利用できるようにすべきだという政府の目標を先導しています。

ナチュラル・イングランドの国立自然保護区(NNR)では、参加者の健康と福祉の両方に利益をもたらすグリーンケア活動が行われている一方で、環境のための実践的な保全改善も行われています。例えば、アストンローワント国立自然保護区(Aston Rowant NNR)、オックスフォードシャイア・ソニング・コモン(Oxfordshire Sonning Common)、ウォーリングフォード・グリーンジム(Wallingford Green Gyms)では、月に一度、低木の管理や柵の設置、家畜の世話などの保全活動を行っています。

ナチュラル・イングランドの国立公園でのボランティア活動は、2012年から2013年にかけて、国立公園を拠点とする2,000人弱のボランティアが2万8,000日以上にわたり実践的な保護活動やイベント、種の調査に貢献したことで、大きな成果を上げています。アインズデール・サンド・デューンズ国立自然保護区(Ainsdale Sand Dunes NNR)と リバル・エスチュアリー国立自然保護区(Ribble Estuary NNR)のウッドワークス(Woodworks)団体は、この保護区を利用して、精神的な不調から回復する機会を人々に提供しています。この団体は、2つの保護区で毎週作業日を実施しています。

記事引用元:Connecting with nature offers a new approach to mental health care

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