画像引用元:“TechSoup Canada”
自閉症の息子を持つドナ・ブリケットさんが、カナダのアルバータ州で開設したグリーンケアファームの紹介記事です。ドナさんは、自閉症を持つ大人の方が自然の環境の中で自信や幸福感を得るとともに、農業スキルを身につけられるプログラムを提供していますが、最終目標として、自閉症の大人が自立する上で重要となる住居の提供を目指しています。
Green Care Farms: Healthy Lifestyles for Adults with Autism
サイト名「TechSoup Canada」
執筆者「Matthew Couto」
自閉症を持つ大人の幸福と発展のためには
「他人に判断されない」という自由な環境を持つことが不可欠です。 「自閉症の人は、いわゆる『普通の人』と同じくらい数を数えることができます」と話すのは、自閉症を持つ成人のソフィーさん。ソフィーさんは自閉症を持つ人々のニーズについて、「ほかの人々と対等だと感じることができ、他人よりも劣っているように感じない環境を持つことが重要なのだと、人々は認識すべきです」と言います。
ソフィーさんは、エドモントン(Edmonton)のすぐ東にあるケアファーム「グリーンケアファーム(旧ホーム・オン・ザ・レンジ・オーチズム・ランチ)」にて、そのような「他人に判断されない環境」が自閉症を持つ大人や若者の社会的、感情的な発達や農業スキルの開発に寄与していることを感じました。
「ファーマー(農家)」と呼ばれる、グリーンケアファームで働く彼らは、有機食品の栽培や家畜の世話を学ぶとともに、農業に関するレッスンや活動の中で読み書きのスキルを高めます。読み書きプログラムでは、彼らが毛虫を見つけて毛虫についてもっと知りたいと思えば、毛虫に焦点を当てたプログラムを組み、彼らの好奇心を満たすこともあります。また、カエルを捕まえたり、子羊に餌をあげたり、おかしなダンスを一緒に踊ったりといった体験も、互いにシェアしています。
このグリーンケアファームで作業をする自閉症の人々は、自然の中に身を置きながら、地域社会にも貢献しています。彼らが育てた果物や野菜を「ベジボックス(野菜箱)」として販売しています。販売による年収は約3,000ドルに過ぎませんが、これは立派な社会的企業モデルであり、働く彼らに自信を与え、目的と帰属意識を与えてくれます。
グリーンケアファームの創設者であるドナ・ブリケットさんは「自閉症を持つ大人は街の騒音や喧騒に圧倒されることが多く、自然の中の静かな田舎の環境は、彼らに安らぎを与えます。そんな環境の中で彼らは心を落ち着け、新しいスキルを学び、不安を軽減することに集中できるのです」と言います。
住宅の代替形態としてのグリーンケアファーム
ドナさんは、カナダのアルバータ州政府でソーシャルワーカーとして働いていましたが、自閉症や発達障害のある大人の場合、農場関連のプログラムに参加すると、さほど手を貸す必要がないことに気づいたと言います。グリーンケアファームでは参加者が1~7人と、都会のプログラムに比べて人数が少なく、同ファームでプログラムの成功を収めたドナさんは、エドモントンに住む自閉症の大人たちに、次は自分たちで田舎に住む体験をしてもらいたいと考えています。
「私たちは様々な障害者ケア組織と関係を構築していますが、その多くは市内にあります。そのため、クライアントが農村の環境、動物、私たちの農業プログラムを楽しめるように、少し遠くまで車でドライブするよう促しています」とドナさんは言います。
ドナさんはまた、持続可能な住居の選択肢としてグリーンケアファームを推進しています。
カナダでは一般的に、自閉症の成人は障害者支援金や補助金付きの住宅を申請することになりますが、アルバータ州では自閉症の人が住宅支援の対象となるにはIQスコアが70以下でなければならず、高機能自閉症の成人の多くが、住宅支援を受けられていない状況です。オンタリオ州には約1万4,000人の発達障害者が住宅待機者リストに登録されており、住宅支援を受けられるという保証もなく長期間にわたり待機しています。(アルバータ州については現在の統計はありませんが、エドモントンとその周辺のすべての地域で障害者用住宅の待機者リストがあります。)
この問題は、自閉症の成人が自立する上で直面する障壁となっています。運が良ければ、親や兄弟と一緒に暮らすこともありますが、市内のシェルターを利用する場合などは、薬物や暴力にさらされるケースもあります。
こうした問題への対応が、グリーンケアファームにおけるドナさんの仕事の中核を成しています。ドナさんの最終目標は、自閉症の成人に持続可能な代替住宅モデルを提供することです。カナダでは過去20年間に自閉症が急増しており、20年前は児童5,000人につき1人だったのが、今は68人に1人となり、子供たちの多くは成人期に移行しているため、自閉症の成人向けの住宅ニーズは今後さらに増えると考えられます。
「私の夫と私は、息子の自閉症について選択の余地はありませんでしたが、それにどう対応するかの選択肢は持っています」とドナさんは言います。「世界中で今まで以上に自閉症を持つ大人が増えていくということを認識し、その中でこの世界をより良く、より強く変えてこの世界を去るつもりです」。
前を向いて
多くの親がそうであるように、自閉症はドナさんの人生を動かしてきました。彼女は、12歳の彼女の息子と同様に、自閉症を持つ田舎の子供たちにも選択肢が必要だと感じていました。
「グリーンケアファームは愛情の結晶です」とドナさんは言います。「農場は、息子が言葉を持たないときに走ったり叫んだりできる場所でした。もし何も変わらなければ、彼は大人になってもそういった選択肢を持つことはできないでしょう」
グリーンケアファームはもともとドナさんの裏庭にある数エーカーの土地で運営されていました。しかし、彼女は来シーズンに小さな農場をリースして、オーガニックガーデンの区画を地域に貸し出したり、子供や若者関連の団体に貸し出したり、オフシーズンにプログラムを提供する計画を立てています。
最終的な目標は、80エーカーの土地を購入し、大規模で持続可能な有機農場を作り、多くの自閉症の成人に住居を提供することです。また、彼女はこの土地を使ってアグリツーリズムプログラムを開発し、ミニパットコースやふれあい動物園のようなエンターテイメントを立ち上げ、自閉症の大人のための雇用機会につなげるほか、自閉症について学ぶことのできる非公式の交流の場を作ることを目指しています。
ドナさんは、このモデルを他の地域にも広めたいと考えています。ケアファームは米国で広く普及し、成功を収めていますが、それがカナダでも普及されるのを望んでいるのです。脆弱な人々のためのケアモデルとして健康と農業をつなぐ取り組みはオランダで始まり、その効果が証明されています。現在、オランダには700以上のケアファームがあり、農家、環境、コミュニティ全体に利益をもたらし、さまざまな脆弱な人々を健康的な方法でサポートしています。
「グリーンケアファームに到着すると、人々は大きな笑顔を見せてくれます。自然の中にいて、手を動かして作業をし、種から野菜が育つのを見ることは、心を落ち着かせ、やりがいがあり、生活の質を高めてくれます」とドナさんは言います。「私たちが作らない限り、自閉症や発達障害のある人たちはどのようにしてこのような機会を得ること。
TechSoup Canadaからの支援
非営利組織をICTで支援する米国拠点の「TechSoup」のカナダ支部「TechSoup Canada」は、グリーンケアファームのような非営利団体に対し、寄付されたソフトウェアや値引きしたソフトウェアを提供し、それによって節減できた時間や資金を団体の活動に再投資できるよう支援しています。
「非営利の慈善団体として、たくさんの異なるものが必要になります」と話すドナさんですが、グリーンケアファームを始めたとき、最初に助けを求めたのはTechSoup Canadaだったと言います。
ドナさんは、会計処理やデータベースの操作、マーケティング資料のデザイン、デジタルセキュリティの強化のためのソフトウェアを注文したほか、寄付者を増やすために、Microsoft OfficeとGrantStationも注文しました。これらのソフトウェアは、彼女のプログラムの成長を支援するために不可欠なものだったと振り返るドナさんは、「TechSoup Canada のサポートと、私たち非営利慈善事業への支援に心から感謝しています。彼らは、この国の地域社会の取り組みを推進する貴重な資源となっています」と言います。
記事引用元:TechSoup Canada