ケアファーム 心的外傷性の悲しみに対処するための修復の場の利用

ケアファーム 心的外傷性の悲しみに対処するための修復の場の利用

画像引用元:“Care Farming: Using Restorative Spaces to Address Traumatic Grief

雑誌『Health & Place』に掲載された最近の研究では、心的外傷的悲しみを経験した人たちのための介入方法として、農業空間での治療的実践を組み合わせたケアファームの使用を調査している。アリゾナ州立大学のジョアンヌ・Cacciatoreが率いる混合療法の研究では、心的外傷的な喪失を経験した後に “ケアファーム “で治療を受けた人々が改善に向かう大きな兆候を示したことを発見した。

“このフレームワークは,治療的介入の地理的な位置とコミュニティに注目し,健康を構成する活動的な場所としての場所に焦点を当てている。健康と健全の経験は、それらが経験された場所と切り離すことは不可能だとを認識している”と,Cacciatoreと共著者であるRichard GormanとKara Thielemanは書いている。

“健康を促進する介入はまた、『社会と空間が密接に絡み合っている』治療環境の中で、環境、対人関係、個人的な影響が重なりあっていることにも注意を払わなければならない。

愛する人の喪失は、個人が対処することが非常に困難な複雑に絡み合った感情の経験を生み出すことがある。この喪失がトラウマ的状況下にある場合、つまり、その人の死が殺人、自殺、またはその他の暴力的な手段によるものである場合、またはその人に非常に依存している場合、人は心的外傷になるような悲しみを経験することになる。

“心的外傷性の悲しみは、生物学的、心理学的、社会的、文化的な側面を持つ複雑な経験的な状況だ。それは長期的かつ強烈な苦痛を引き起こし、個人を様々な感情的、精神的、身体的健康障害や健康被害を受ける危険にさらし、収入、雇用状況、人間関係にも影響を与える」とCacciatore、Gorman、Thielemanは説明している。

外傷性悲嘆の治療は、精神障害の診断と統計マニュアル第5版に「持続性複雑死別障害」が追加されたこともあり、医学的にますます進んでいる。

“この動きは、うつ病や心的外傷後のストレス症状とは無関係に悲しみに関連した問題を捉えることが出来ると称賛されてきたが、喪失への正常な反応を病的にし、広範囲の外傷性死別に関連した正常な経験を無効にして沈黙させうる悲しみにおいて、正常な症状と任意の時間軸を標榜する危険を含むため批判されている」と著者らは書いている。

悲しみのプロセスの医学化が進んでいることへのひとつの回答が、複数の方法で心的外傷の治療を受けることができる治療環境である。そのような環境の一つがケアファームであり、これは”通常の農業活動を通じて心身の健康を促進するための基盤として商業的な農場や農業風景を利用すること “と定義されている。

個人の心的外傷性の悲しみの体験に対するケアファームの影響を理解しようとする最近の試みで、研究者は米国南西部地域の22人の成人を募集した。参加者のほとんどが子供の死を経験しており(77.3%)、残りの参加者は兄弟の死を経験していた(22.7%)。ほとんどの参加者は、その死が突然の予期せぬものであったと報告した(86.4%)が、他の参加者は、その死は長期にわたる病気の結果であったと報告した(4.5%)。または「その他」とされ、その死が診断後1年以内の終末期の病気によるものであったと報告した。

ボランティア参加者たちは、アリゾナ州北部にあるケアファームで2日間、合計10時間を過ごした。ケアファームで鍵となるものは、そこで暮らす動物たちだ。ケアファームでのすべての動物は助けられ、”平等主義のモデル”として存在している。つまり、この農場は動物たちに一定の自律性を与え、人間との交流の有無に関わらず、動物たちの意思が尊重され、優先されることを目指しているのだ。

研究の一環として、各参加者は農場で4~6時間の心的外傷性の悲しみに焦点を当てたセラピーを受け、動物たちと交流し、農場内の様々な回復のためのスペースを自由に利用した。

研究者たちは、「心的外傷と悲しみの主観的な経験に対するケアファーム介入の効果を理解する」試みとして、標準化された方法であるTherapeutic Grief Inventory-Self Report (TGI-SR)と質の高い面談を用いた混合療法を用いた。

TGI-SRを治療介入前に実施したところ、参加者全員のスコアは死別に関連したストレスは高いレベルを示していた。2日間の治療に参加した後に、参加者たちにTGI-SRが再度行われ、練り上げられた面接が実施された。
定性的に、参加者に重要な3つの事柄が明らかになった。

1. ケアファームの回復的空間。
“参加者がケアファームの空間に結びつけた安全な「優しい雰囲気」が、正式なカウンセリングといかに作用し合うかが具体的になった。参加者たちは、心的外傷や喪失をめぐる感情や視点を探求することができたと感じた。

2. ケアファームのコミュニティ的側面。
“参加者はしばしば、悲しみの影響を受けている人たちのコミュニティに参加することが、死別時によくある孤独感や社会的孤立感を打ち消してくれたことが、ケアファームでの経験の有益な面だったと報告している。

3. ケアファームでの動物とのつながり。
“動物と一緒に過ごすことが内省と感情の処理に役立ち、孤独感を解消し、意味ある気晴らしの作業になった。 その効果は定性的にも実証されている。研究者たちは、ケアファームの実施後、TGI-SRの悲しみの強度が大いに減少し、平均14ポイント改善したことが分かった。テスト後の平均スコアは臨床的なスコアを下回っており、参加者たちは臨床的には大きな悲しみの基準に当てはまらなかった。

ケアファームは治療のプロセスのための環境の重要性を強調している。この研究は、心的外傷性の悲しみに対処するための回復空間とコミュニティの設置を提供するケアファームの一例に過ぎない。著者らはこう結論づけている。

“この評価から得られた結果は、悲しみの影響を受けた人々が連帯感や支援、回復力を見出すための特定のコミュニティや空間を作ることの利点を反映している。また、「治療的景観」のアプローチが死別者支援について考える際にもたらす価値を示唆している。”

Cacciatore, J., Gorman, R., & Thieleman, K. (2020). Evaluating care farming as a means to care for those in trauma and grief. Health & Place, 102281.

 

Jessica Janze

MIA研究ニュースチーム。ジェシカ・ヤンツェは、マサチューセッツ大学ボストン校のカウンセリング・学校心理学プログラムの博士課程の学生。カウンセリング心理学の修士号を取得しており、主に心理的トラウマの影響を受けた子どもたちを扱っている。ジェシカの研究テーマは、早期教育におけるマインドフルネスの影響、感情の調節、瞑想的な実践がメンタルヘルスに果たす役割などだ。

記事引用元:Care Farming: Using Restorative Spaces to Address Traumatic Grief

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