介護業界で働き始めて20年以上が経過しました。長く介護業界に携わる者として、業界の大きな変化を実感しています。
介護業界の変化 ①人手不足
一番大きく変わったのは、介護の担い手が年々減少していき、人手不足が大きな課題となっていることです。私が介護業界に入った頃は、介護保険の黎明期で介護を志す学生が多くいました。しかし最近では、介護系学校の数がどんどん減少し、生徒の減少も著しく、介護系学校を卒業した学卒者に入社してもらうことは本当に難しくなっています。
2006年から2018年の統計を見ると、介護福祉士養成施設への入学者数は3分の1に減少していることがわかります。それに反比例して、介護施設の数は右肩上がりで増加しているので、ひとつの施設で確保できる学生数は非常に限られています。
出典:令和2年度 介護福祉士養成施設の入学定員充足度状況等に関する調査の結果について
(公益社団法人 日本介護福祉士養成施設協会)
少子化などにより全体的に若者が減少しているという理由もあると思いますが、一方で看護師学校の定員数は緩やかに増加傾向です。特に看護大学の増加は著しく、看護師養成校全体では2006年から2018年で25%ほど定員数が増加しています。以前であれば介護を志していた学生が、看護師養成校に流れているという現状もあるのかもしれません。
介護施設ではさまざまな資格保持者が働いており看護職員も必要ですが、やはり多くを占める介護職員の確保が一番の課題です。外国人の雇用を進める施設も増えていますが、最近では円安やコロナウイルスの影響などから、介護を志して日本に来る外国人が減少しているという話を聞くことも増えました。今後は、外国人労働者も今以上に確保が難しくなっていくかもしれません。
出典:看護系大学の現状と課題~助産師教育の動向も含めて~
(文部科学省 高等教育局 医学教育課 看護教育専門官 高橋良幸)
介護業界の変化 ②介護保険制度
この20年ほどで介護保険制度や社会情勢も大きく変わりました。介護保険制度の良い側面、悪い側面を考えることがあります。私の勤務する施設も含め、多くの介護施設は介護保険制度に則って、サービスが提供されています。一方、介護で困っている人が全て介護保険制度で満足できる生活を送れるとは限りません。
私の義母は比較的若い年齢で脳出血を患いましたが、幸いリハビリによって軽快してきました。しかし、独居での生活は難しく介護施設にお世話になっています。金銭的な余裕があればもっと他の施設や受けるサービスの選択肢は広がるかもしれませんが、先立つ物がなければ何かを犠牲にしなくてはいけないことも現実です。万人が納得できる介護保険制度は現実的には難しいことです。
私は福祉系の学校で専門的に学んだ訳ではなく、事務員として採用され、介護老人保健施設の事務長や特別養護老人ホームの施設長を経験し、今に至っています。そのせいか、現在の介護業界や介護者に対していつも懐疑的な見方をしてしまうことがあります。
- 何のためにそれをするのか…
- そこに時間をかける必要があるのか…
- 誰のための制度なのか…
福祉の知識や思いが強すぎる人の中には、損得勘定や仕事としてという意識が低い場合があります。介護の生産性が問題視されて久しいですが、もう少し効率的で属人化を減らしていかなければ、介護保険制度は続かないのではないかと危惧しています。
海外事例:ケアファーム
最近読んだ記事をひとつ紹介します。海外の事例を取材した記事で、日本との違いがとても興味深い内容になっています。
認知症の人とケアする人しかいない…「自分なら”認知症村”で暮らしたいか」介護の専門家が下した結論
私も、介護事業者として、また要介護者の家族を持つ当事者として、どのような介護が幸せかを考えることがあります。昨今のコロナ禍で、介護施設から何年間も外に出られず、家族とも会えない高齢者も増加しています。望んで入所したと言ってしまえばそれまでですが、選択肢がないということも現実です。
この記事では、海外のケアファームの事例が紹介されています。どのように経営が成り立っているのか、どのように制度化されているのかなど、日本との違いはとても興味深いものです。日本と海外では制度や文化、国民性などが異なるので、海外の事例が必ずしも日本に当てはまるとは限りませんし、ボランティアへの意識などが海外と日本では大きく異なるので、海外で行われているケアがベストかと言うと必ずしもそうとも言えません。
しかしながら、現行の介護保険制度では決められた場所・人数・サービスでないと保険算定が認められず、デイサービスの外出レクリエーションをサービス提供時間に含んではいけない、と指摘を受けた例も聞きます(予め通所介護計画に位置づけられていれば可能です)。そのような画一的な対応ではなく、もう少し柔軟な介護保険制度に変わっていき、社会で高齢化社会を支えられるようになれば、働く人もケアを受ける人もやりがいに繋がるのではないかと考えています。