イタリアにおけるケアファーム(ソーシャル・ファーム):周辺農村地域への付加価値提供

イタリアにおけるケアファーム(ソーシャル・ファーム):周辺農村地域への付加価値提供

画像引用元:“Depden care farm

ソーシャル・ファーム(ケアファーム)の発展は欧州各国で状況は異なりますが、イタリアでは地域に根付いた重要なサービスとして機能しているようです。特に、南チロル地方で始まった女性農業者向けの託児所サービスや保育・教育面での取り組みは興味深く、子どもたちのための環境教育だけでなく、ケアファームで働く女性向け支援や所得改善につながっており、農村部においてケアファームがさまざまな側面から地域を支えている状況がうかがえます。
(原文ではソーシャル・ファーミングという言葉を使っていますが、日本でより一般的なケアファームという言葉におきかえています)

 

ソーシャル・ファーミング(ケア・ファーミングとも呼ばれる)とは

動物や植物などの農業資源を利用して、農村地域の社会的サービスを促進・創出する短期または長期的な活動を指します。これらのサービスの例としては、リハビリテーション、セラピー、介護付き雇用、生涯教育、その他の社会的包摂に貢献する活動が挙げられます。

ケアファームは20 世紀半ばに北欧諸国(ベルギーやオランダなど)で誕生したもので、社会福祉と経済福祉の両方にプラスの影響を与えるとの認識が広まるにつれ、農村地域を中心にヨーロッパ中に広まりました。ケアファームの発展は欧州各国で異なりますが、特定の社会的ニーズに対応し、地域に根ざした革新的な農村開発を促進する方法として捉えることができます。農業環境とリハビリテーション、介護サービスを組み合わせることで、人々の生活の質の向上と社会的包摂に貢献するだけでなく、農家が事業を拡大・多様化し、新たな市場を開拓し、食料生産を超えた代替サービスを提供する機会となっています。

イタリアではケアファームはまだ新しく、1970年代初頭から発展してきました。主に、1968年の革命運動やその他のコミュニティベースの取り組み(ドン・ミラーニのバルビアーナ学校、カポダルコ・コミュニティなど)に基づいていましたが、1980年代に精神科施設が閉鎖されると、ケアファームの設立が増加しました。イタリアで行われているソーシャル・ファーミングは、今日では社会的ケアの信頼できるシステムと考えられており、提供者は通常、社会協同組合で組織されています。また、民間の農家がサービスを提供していることもあり、彼らは様々な取り組みを提供していますが、主な分野は、職業紹介と雇用重視の取り組み、保育・教育・訓練の2つとなっています。

雇用重視の取り組みは、農場での労働統合と社会的包摂を目的としており、さまざまな問題や障害を持つ特定の人々(中等度の身体障害者、精神衛生上の問題や学習障害を持つ人々、社会的排除を経験している人々など)や、脆弱なターゲットグループ(長期失業者、元囚人、常習者など)を対象としています。これらの人々は、園芸、ブドウやオリーブの木の栽培、動物の世話、食品加工、農産物の直接販売、ファームレストランでの就労などに参加しています。このようにして、弱い立場にある人々は、能力やスキルを高め、社会生活を向上させ、社会や労働市場への再統合という代替的な実践を経験する機会を得ることができています。

 

保育・教育の取り組みでは

農園活動に直接参加させることで持続可能な栄養教育や環境教育を伝えることを目的とした、児童・学生向けのケアや教育が含まれています。イタリアでは、「fattorie didattiche」 と呼ばれるこれらの教育農場が近年大幅に成長しており、特に農村部や都市周辺地域において重要な存在となっています。

イタリアには、提供者と需要家を結びつける地域ごとの強力なソーシャル・ファーミング・ネットワークがあり、農場が具体的なサービス内容を提示できるプラットフォームとして、このネットワークが重要なマーケティング要素となっています。地域ネットワークに加え、イタリアには 2011 年に開始された全国フォーラムがあり、これが、農業システムの革新としてケアファームを推進する原動力となっています。それからわずか4年後の2015年8月18日に、イタリアは国の枠組み法141号を施行し、地域の社会的ニーズ、地域の利用可能な職業、農業資源を尊重したケアファームの実践を認めるための原則と手続きの枠組みを提供しています。

イタリアにおけるケアファームの興味深い取り組みとして、ボルツァーノ・ボゼン自治県(南チロル地方)にある社会協同組合「Mit Bäuerinnen lernen-wachsen-leben」(女性農業者と一緒に学ぶ・育てる・暮らす)があります。ボルツァーノでのソーシャル・ファーミングの歴史は比較的浅く、2006年に協同組合設立、2007年には農園の子どもたちに託児所を提供することで活動を開始しました。同社会協同組合は、女性農業者などの家族による保育を行い、自然とのふれあいを促すことを目的に農場での保育を開始しました。このようにして、農場は学習の場へと拡大し、環境教育の補完的かつ代替的な場を提供しています。従来の環境教育や自然教育から、農業資源や環境を教育の要素として直接的に統合することで、子どもたちの学習に対する好奇心を刺激し、環境や持続可能な農村資源に対する意識を高めることを目的としています。保育サービスには、6人までの子どもに対応した個別のケア、柔軟な保育時間、家族構成への統合、伝統的な文化的価値の伝達、環境教育、サマーケア、様々なイベントでの子どものケアなどが含まれます。現在活動中の106人のデイケア・マザーは社会協同組合で組織され、南チロルで効果的な保育サービスを提供しています。特に周辺地域では、このサービスは既存の公共サービスを支え、地域の需要に応えています。

また、社会協同組合のメンバーの中には、学校の子どもたちを対象とした教育的農場活動を提供している人もおり、子どもたちは農場で数時間を過ごし、農場生活の文化的環境を実際に学ぶことができます。

この社会協同組合は2014年に、パイロットプロジェクトとして高齢者ケアの提供を始めました。南チロル地方における高齢者の増加に対応したもので、同地方では1975年に4万3,500人だった高齢者数が、2015年には10万人に増加しています。当初は10人の女性農家がサービスを提供していましたが、現在では32人に増え、要望に応じてサービスを提供しています。高齢化社会に対応するだけでなく、このサービスは、制度化された公共サービスの効率性に対する懸念の高まりにも対応しています。このようにして、高齢者は家庭的なケアを受け、農業生活に積極的に溶け込むことができるようになります。これらのサービスを提供するためには、資格コースの「農場における高齢者」と「デイケア・マザー」の受講が必須条件となっています。

 

この社会協同組合は

2014年に、パイロットプロジェクトとして高齢者ケアの提供を始めました。南チロル地方における高齢者の増加に対応したもので、同地方では1975年に4万3,500人だった高齢者数が、2015年には10万人に増加しています。当初は10人の女性農家がサービスを提供していましたが、現在では32人に増え、要望に応じてサービスを提供しています。高齢化社会に対応するだけでなく、このサービスは、制度化された公共サービスの効率性に対する懸念の高まりにも対応しています。このようにして、高齢者は家庭的なケアを受け、農業生活に積極的に溶け込むことができるようになります。これらのサービスを提供するためには、資格コースの「農場における高齢者」と「デイケア・マザー」の受講が必須条件となっています。

この社会協同組合が提供している貴重な貢献に加え、地域全体で既存の活動を拡大したり、新たなケアファーム活動の導入も計画されています。新しい活動としては、障害者のための活動、特定のケアサービスを提供する農場での休暇、園芸やアニマルセラピーなどが考えられます。新しい活動を導入することは、農場と民間・公的機関との新たな協力関係を促進するだけでなく、農村と都市の関係を強化することにもつながると考えられています。

ケアファーム活動は、今日の社会の要求の変化(高齢化、家族構成の変化、都市化社会における農村生活の再評価、移住者の大量流入、慢性疾患患者の増加など)によって確立されてきました。これらは、制度化された社会サービスが十分に対応できていない社会のニーズに対する実践的かつ革新的な取り組みです。したがって、ケアファームは、脆弱な人々の自立と、農場での積極的な協力と支援に基づく個人的な開発を刺激し、社会的・経済的な福祉に貢献しています。また、女性農家の社会的地域の向上に役立つほか、女性が農場で教育、ヘルスケア、治療などの職業に就くことができるため、農村地域で副収入を得る機会にもなっています。さらに、更なる過疎化を防ぐために人々にサービスを保証することで、周辺地域の経済的持続可能性の発展に役立っています。

一方、ケアファームの革新的な側面は2つあり、特定のターゲットユーザーのための新しい取り組み開発(例:携帯電話に依存する子供や若者のためのケアファーム活動、自閉症の子供のためのアートセラピーなど)と、もう1つは、水平的・垂直的な新しい形態のコラボレーション(例:農業、社会、経済、医療、教育、観光、地域開発分野の間での)の創出と官民パートナーシップの確立が挙げられます。

 

参考文献

-Di Iacovo, F., O’Connor, D., (s.), 2009. ヨーロッパにおける社会的農業のための政策を支援する。レスポンシブ・ルーラル・エリアにおける多機能性の進展. ARSIA, Firenze. -ガリス, C. 2013. “グリーンケアとは何か?序論、歴史、起源」in. Gallis, C. (ed), “Public Health in the 21st Century, Green Care for Human Therapy, Social Innovation, Rural Economy, and Education”, Nova Science Publishers, New York.
-O`Connor, D., Lai, M., & Watson, S., (2010). 厳選されたEU加盟国における社会農業と農村開発政策の概要。社会的農業に関するNRN共同テーマ別イニシアティブ。

-ボゼン・ボルツァーノ自治県-南チロル-南チロル、州統計局、ASTAT Info No.64 09/2016、2016年10月1日-国際高齢者の日

記事引用元:Social farming in Italy: an added value for peripheral rural areas. Elisa Ravazzoli , Clare Giuliani

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