介護施設での高齢者の集団生活
介護施設は高齢者が集団生活を送る場です。私が勤める特別養護老人ホームでは、70歳代から100歳を超える方まで、幅広い世代の方が入所しています。特別養護老人ホームには要介護3以上の方が入所されますが、中には比較的お元気な方もいらっしゃいます。介護保険で利用できる施設なので、他の介護施設とは大きく変わらず、高齢者の生活全般を支援しています。
軽度な認知症があったMさんのケース
以前私が勤める特別養護老人ホームに入所していたMさんは、70歳代の前半で軽度の認知症がありましたが、意思疎通や記憶力は極めて良く、介護施設での生活を持て余していました。特別養護老人ホームに入られる前は、ショートステイを長く利用しており、定期的に自宅に帰ってお酒を飲んだりするのが好きな方で、特養に入所されてからも、入所者・ご家族の希望もあり、医師に許可を得て施設内での定期的な飲酒も認められていました。
しかし、Mさんは「自由に好きなものを食べたい」「お酒も制限なく飲みたい」「エレベーターで好きなように館内を移動したい」など、他の入所者とは明らかにかけ離れた希望を訴えられており、ご家族に対しても、「なぜ特養にいなくてはいけないのか」「自分はここの人達とは違う、家族に騙されて入所させられた」など、何度も訴えていました。まだお若い方ですし、ご本人の生活の質(QOL)を考えれば、全てを制限するということは望ましいとは思えません。しかし、特別養護老人ホームは多くの方の共同生活の場です。他の入所者とのトラブルや本人がケガをすることなどは、施設を守る意味でも常に気を遣います。
そのため、全てをご本人の希望通りにするわけにはいかず、結果的にMさんは入所から数ヶ月後に、ご家族と話し合って他の有料老人ホームを探して退所することになりました。
入所後の生活の質(QOL)の大切さと現状
この時の経験から多くのことを考えさせられました。
認知症があり高齢になり身体が不自由になったとしても、生活の質については考える必要があります。特にしっかりした方の場合、施設への入所は、本人が納得した上でなければ続きません。若い方の場合は、もしかしたら10年、20年と入所が続くこともあります。一方で、入所者の要望を全て聞き入れることは残念ながら難しいのが現実ですし、特別扱いはできません。
特別養護老人ホームや介護老人保健施設などは、介護保険という枠組みの中でサービスが提供されています。もちろん施設によって、設備や提供内容、介護の質はさまざまですが、基本的なところは大きく変わりません。最近では、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅など、選択肢も多くなっています。
以前、見学をさせて頂いた有料老人ホームでは、ペットを連れて施設に入所することができる介護施設でした。施設への入所をきっかけに、今まで家族同様に生活を共にしていたペットと離れ離れになるのは、高齢者にとってもペットにとっても寂しいものです。ペットと一緒の生活はアニマルセラピーにもなって、生活している高齢者はとてもよい笑顔だったのが印象的です。またある施設では、グリーンセラピーに力を入れていました。入所者の能力に応じて、草花の世話をする姿はとても生き生きとしていました。草花の持つ生命力や癒し、季節感は何気ない日常生活にも彩りを与えていました。ケアファームでも、高齢者の介護度やご本人の希望によって、そのようなことが実現できます。このように、介護施設ごとに持つさまざまな工夫や特色は私たちも見習わなければいけない、そんな風に感じました。
生活の質(QOL)と介護施設のバランス
自宅であれば自由はありますが、何かあって声をかけても誰かが助けてくれる保証はありません。介護施設は、多少の不自由さはあっても常に誰かが見守ってくれるという安心感を得ることができます。
自分が高齢になった時に、本当に生活したい場所はどのような施設なのか。そして介護施設の管理者として、ご利用される方のQOLと共同生活という施設の特性、そのバランスをどうすればよいか考えさせられました。