介護施設の経営と介護保険制度
介護を提供する施設はボランティアではありません。経営が成り立ってこその介護施設運営であり、経営が上手くいくことで職員への投資ができ、それが利用される方の処遇にも反映されると思っています。
介護保険は3年ごとに介護報酬改定が行われるため、介護施設を経営していると、どうしても報酬改定の度に一喜一憂してしまいます。介護報酬が下がればこれまでの収入をどう維持するか考え、介護報酬が上がれば安堵する。これは今後も変わらないでしょう。最近の傾向では、介護報酬の本体部分は下がって当たり前になっています。収入を上げるためには、加算の取得や手厚い人員配置など、それなりのコストも必要になります。
また介護職員処遇改善加算をはじめとして、職員の待遇改善のための加算が手厚くなっていることで、見た目上の収入は確保できても実際は経営が厳しい、という法人も多くあります。法人によっては、利用者の負担を慮って、取れる加算を取らずに経営を続けている介護施設もあると聞きます。しかし、事業の継続や職員のことを考えればナンセンスだと思います。
介護施設の利用料金
特別養護老人ホームで働いていると、たくさんの利用申し込みを受け付けます。入所までの待機期間や施設の設備・環境など、気になる点は多くあると思いますが、皆さんが一番気にする点はやはり利用料金です。入所前は、「とにかく家で見るのは大変だから早く入所させて欲しい」と言っていたご家族も、入所が叶うと「利用料金が厳しい、なんとかならないだろうか」と変わってくる場合があります。
現在の介護保険制度には、原則1-3割の負担があるとは言え、施設入所者にはさまざまな減免措置や補助制度が手厚く揃っています。負担限度額認定による食費や居住費の減免、社会福祉法人減免を利用した利用料金の減免など、経済的に厳しい方でも公的な補助を利用して介護施設へ入所することが可能です。これは特別養護老人ホームなどの入所施設にのみ適用され、社会福祉法人減免で負担する費用は施設を運営する法人が一部を負担しています。
私も介護施設で働きながら、24時間365日、三食・お風呂・おむつ交換付きで現在の金額で利用できる介護保険制度の素晴らしさと同時に、在宅介護との不公平感を感じることがあります。
介護保険制度と日常生活動作(Activities of Daily Living)
介護施設へ入所するということは、その施設のタイムスケジュールで生活することになり自由度は減ります。ユニットケアの施設も増えていますが、特別養護老人ホームの場合は、原則として要介護3以上と重度の方がほとんどのため、実際にユニット内で食事をつくったり好きな時間に食事や入浴ができるという特別養護老人ホームは極めて少ないはずです。
介護施設へ入所することで刺激が減り、入所者のADLが低下したことで、介護施設への入所を決めたご家族が後悔するという話も聞いたことがあります。多くの介護職員は、入所者のために時間や手間を掛けてあげたい気持ちが強いと思いますが、限られたマンパワー、限られた時間の中で業務をこなすのが精一杯というのが多くの特別養護老人ホームの現状です。
しっかりと経営するということは、一定の剰余を出し事業を継続していくことです。そのためのコストコントロールは必須で、アクティビティや要介護度の改善が保険点数に結びつかない今の介護保険制度では、限られた付加価値しか提供できないことは残念なことだと思います。
自由度の高いケアファームやサ高住
一方で、介護保険制度の枠組みに縛られないケアファームやサ高住などは自由度が高く、施設の色を出しやすいという特徴があります。選択する介護サービスは自己責任です。多くの方と触れ合いたければ通所介護など、自由な生活を送りたいのであればホームヘルパーを利用するなど、利用する介護サービスを選択できる点は施設介護にはない特徴です。ベストな選択には先立つものも必要ですが、選べるのであれば、人間らしい環境で老後を過ごせることが理想ではないでしょうか。
介護施設の運営は、以前と比較すると決して楽ではありません。現段階では、介護保険と自費による混合介護は原則として認められていません。今後、制度の見直しがあるかもしれませんが、介護施設の経営者として、介護保険サービスだけに頼らない選択も視野に入れる必要があるのではないかと考えています。利用される方やご家族も安心でき、提供する側も満足のいくサービスや環境を提供できる、そんな施設が理想です。